間取り作りのプロセス(2)

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間取り作りのプロセス(1)で何度も設計変更してと書きました。

間取りが決まるまでにどれくらいの設計変更をするでしょうか?

設計の仕事を長年やってきましたが、ケースバイケースです。
設計変更の多さで記憶に残るのは、初回A案を出して打ち合わせの結果、次にB案を出しと
変更を重ねるうちにアルファベット26文字で足りなくなったというケースがあります。
これは特殊な例ですが、、、

間取り作りを繰り返しているうちに、ご自身が今まで理想としてきたことと、実際に希望していることが違っていることがはっきりしてきて、間取りの基本から練り直すというようなケースもありました。

このような場合はゾーニングからやり直します。一度あるストーリーで組み立てていますので、各部に関しての有り方は頭に入っています。やり直しに関しては比較的時間が掛からないものです。

ところがこの作業を小手先の修正で済ませようとすると、間取りが不自然にゆがんでくるものです。セカンドオピニオンのご依頼を受けて「家事動線、パントリー、内玄関、階段、勝手口に変更依頼をしたのでは?」とお聞きすると「その通りです」との回答を受けることが少なくありません。その部分が不自然なことで気が付きます。ゾーニングからやり直さなければならないことを部分修正で逃げると起こる現象です。

ハウスメーカーの設計では多くの制約があるようです。セカンドオピニオンを出しても「当社では出来ません」と言われることもあります。技術的な問題ではなくその他の事情を考えて可能な範囲で調整することにしています。

何かの食べ物みたいですけれども「間取りは練れば練るほどよくなります」
勤めていた設計事務所のある先輩が、自宅の設計を1年以上暖めて考えたそうです。
彼の言い分はこうです。設計を長くやっていても建築の置かれた状況を全てイメージすることは不可能で雪の日には雪のことを、雨の日には雨のこと、春夏秋冬、朝昼晩、家事をしているとき、病気のとき、その時々にこの間取りで良いのかと検討しそのたびに気づいた部分を修正して行ったそうです。

すばらしいですね。しかしそれでも不十分だったそうです。

それを聞いたときにはなるほどと思いました。しかし今になって考えるとなぜ不十分だったかも判るようになりました。

とはいえ、少なくとも検討不足は避けたいものです

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間取り作りのプロセス(1)

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間取り作りにはいくつかの段階があります。

第一段階は条件の把握
敷地条件の把握(敷地の大きさ、道路の位置、方位、法的条件など)
設計条件の把握(必要な部屋数、大きさ、駐車台数など)
様々な希望の把握(リビング階段にしたいとか吹き抜けがほしいとか
超ローコストでとか)

次にゾーニング=大まかな目鼻立ちを構成する作業。
方位、作業動線などを考慮して
駐車場の位置、LDK、水周り、玄関、寝室、階段、庭などの位置を
大まかに設定します。

各部設計
キッチン、浴室、収納など詳細に詰めて行きます。

この3つの段階を何度も何度も設計変更して提案する間取りが出来ます。
ほとんどの場合提案する案の他に何案かの間取りができています。
その中から最もふさわしいと思うものを第一案として提案します。また住まい手の意識を量りかねるような時には2~3案を見ていただく事もあります。

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時には方針転換も必要

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新国立競技場の整備費が2520億円で強行されそうです。多くの反対意見がある中で「国際的に約束したこと」と言うことで民意が押し切られるのには歯がゆく思います。沢山のしがらみの中で方向転換することは難しいと言うのは解るのですが。ギリシャの経済破綻や、太平洋戦争で敗戦まで流れを修正できなかった日本の歴史と重なるイメージを抱くのは私だけではないと思います。

新国立競技場

実は間取り作りのプロセスでも同じようなことが頻繁に見られます。

『住宅展示場で見た「スキップフロアーの家」に一目ぼれしてしまってどうしてもスキップフロアーの家にしたい』と言うケースが何件かありました。

「スキップフロアー」は一部1.5階分の吹き抜けのダイナミックな空間が出来て、半階分の広い収納が出来て夢がいっぱいです。

しかし具体的に設計を進めると、リビングとキッチン、キッチンと洗面・脱衣・浴室が半階ずれて家事動線が長く段差ができたり、面積も大きくなりやすく、コストも余計に掛かったりします。間取りを作ってそのような事を説明してもなかなか受け入れられにくいものです。

予算や敷地に余裕がある場合には支障なく夢をかなえることが出来ると思います。そうでない場合には、あきらめて別の理想を求めることも重要です。

先日の記事では「理想を求め続けること」が大事と書きました。今回は方針転換することも大事と言う記事です。矛盾するようですが、「善は急げ」「急がば回れ」と言うような対を成すことわざが有るように、どのような時にも通用する道具は無くその時々に使い分ける知恵が必要と考えます。

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住まい手の仕事

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S様は間取りソフトを使って間取りを自作していましたが思うように行かないとのことでした。

第一回目の図面(=たたき台と呼んでいます)をお送りして、それに対する感想やご意見をお聞きして、次に第一回目の変更案をお送りしました。

するとS様から「頂いた間取りなのですが、おそらくこちらでも編集ができるかと思います。ただ未だやり方が十分解かっておりません・・・勉強しますね!」という健気なご連絡がありました。
しかしお返事は下のようにさせていただきました。「いいえ勉強しないでください、間取りを作るのは建築士の仕事です。住まい手の仕事はどんな生活をしたいか、どんな部屋が好きか、どんな家具が好きか、など夢を膨らませることです。近々、第三案をお送り出来ると思います。少々お待ちください」

間取り作りは技術です。間取り図のソフトが使いこなせるようになっただけでは建築になりません。
法規、構造などは建築士の勉強をしていないと理解しにくいことが有ります。また間取り作りでも、ゾーニング、ブロックプラン、動線計画、日照計画などの建築計画の基本から始まって、各部屋や部分の設計まで、沢山の知識と知恵を駆使して建物に仕上げて行きます。

理想の家を手に入れるのに重要なのは、「どのように生活したいか」その理想像を出来るだけ具体的ににして、それを設計者に伝えることです。

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テーマを持とう(その2)

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テーマを持とう(その1)では世界一有名な落水荘を取り上げました。
今回は日本一有名な軽井沢山荘をご紹介いたします。
建築家吉村順三先生の作品でご自身の所有する山荘です。

軽井沢の家

一昔以上前の建築雑誌のアンケートで、建築関係の読者が「もっとも好きな建築」に選んだ作品です。
小規模ながら考え抜かれた建物です。技術的なものはもちろん使う人の心の動きまで計算しつくされていて、最高の”心地よさ”のある建物です。

沢山の方によって語られた建物でいまさら私ごときがと思いますが
テーマを持とうと言う視点で言えば、「軽井沢」と言う土地の厳しい自然に対応し、森の木々の美しさを上手に味わうことが出来るように配慮されていて、地名がテーマになった好例と言えます。

写真は「けんちく激写資料室」さまからお借りしました。建築に興味をお持ちの方にはお勧めのサイトです。

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テーマを持とう(その1)

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間取り作りのご依頼があると、設計条件をお聞きするために「調査票」をお送りしています。その中に『もし「〇〇の家」という名前をつけるとしたら』という項目があります。
名建築と呼ばれる住宅にはそれぞれにふさわしい名前が付いています。
たとえばフランク・ロイド・ライトの落水荘
落水荘
時々テレビのコマーシャルに出てきますが世界一有名な住宅の一つです。
ライト氏が落水荘という名前をつけて設計したかどうかは知りませんが、滝(フォーリング・ウォーター)をテーマにしていたことは間違いありません。

この美しい姿を作り出すために、そして生活にこの美しい景観を取り入れるために、間取りも工夫されています。

これほど大げさでなくても、ご自身の敷地や周辺の環境などから愛すべき何かを探し出してテーマにするのも大切だと思います。オリジナルの間取りで「私だけの家」を作ろうとしているのですから。

「富士見坂の家」とか「池田山の家」とか地名や風景や歴史をテーマにするのも一つの方法です。「住宅は立地する場と住まい手に沿ったもの」そうあってほしいと思います。

人がそれぞれ個性を持つように、住宅も個性を持ってほしいと思います。どこの風景にも合わず、どんな家族にも合わない既製品の家でないのですから。

 

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理想を求め続けること

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先日間取りの納品が済んだOさんから連絡がありました。
工務店さんから提出された図面のチェックをして欲しいとの事です。

売り建ての物件で建築士さんから「打ち合わせ3回以内に間取りを決めてください」
と言われたそうです。
当方で描いた図面を見て「当社ではあれもこれも出来ません」と非協力的だとの事でした。

しかし今回の図面を見てびっくりしました。
多くの希望が取り入れられロフトまで付いています。

詳しい経緯は分かりませんが工務店の対応に対して
諦めることなく理想を求め続けた結果だと思います。

素晴らしい経験をさせていただいたOさんに感謝です。

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